約束の夏

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――1年前の夏。 目を覚ました私は、窓の外の景色がいつの間にか変わっていることに驚いた。 心地良く揺れる車内で、知らぬ間に眠っていたようだ。 目をこすり、もう一度外に目をやる。 お婆ちゃんの家は、もう近いみたい。 自分の町とは全く違う、一面緑の世界に、私はお婆ちゃんを思い浮かべながら暖かい気持ちになった。 毎年夏休み恒例の、里帰り。お母さんのお母さんで、今は田舎で一人暮らししているお婆ちゃんの家に、5泊6日するのだ。 私は助手席で眠たそうな顔をしているお母さんに、声をかけた。 「お婆ちゃん、元気かな?」 「大丈夫よ。電話したときは、元気そうな声してたから」 私が心配する理由は、歳をとっているからだけでなく、半年前、お爺ちゃんが亡くなったからだった。 最後にお婆ちゃんを見た葬式では、とても小さく、悲しそうな背中をしていたのを覚えている。 お爺ちゃんがいなくなって、一人で暮らしていけるのかと、とても気掛かりだった。 元気だといいのだけど。
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