約束の夏

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「迷子なんだ」 相変わらず優しい顔の彼は、ハッキリそう言った。そんな風に言われると、恥ずかしさ倍増だ。 「違う。分からないだけだし」 ついムキになって言い返すと、くすくすと笑い声が聞こえた。 「連れてってあげるよ。苗字は?」 「佐藤」 さっきまでの警戒はどこへやら、すぐに苗字を言った自分に驚いた。 それに、さっきから変な気分なのだ。 何か、ドキドキしている。 男の子を横目でじっくり見てみた。 黒色の短髪で、きりっと一重の目。整った鼻筋に、優しい笑みを浮かべる唇。 大人な物腰に、私は惹かれていた。 一目惚れ……なのかな。 「ここから1番近い佐藤さん家はあそこかな。行こう」 彼はすっと立ち上がると、私の手を取った。 いやらしさとかはなく、自然に。だから私も握り返してしまう。男の子は力強い歩みで、どんどん私の手を引いて進んだ。 頼りがいのある大きな背中に、胸の鼓動は速くなるばかり。 今、たった今会ったばかりなのに。 私は彼が好きだと感じた。
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