1866人が本棚に入れています
本棚に追加
「迷子なんだ」
相変わらず優しい顔の彼は、ハッキリそう言った。そんな風に言われると、恥ずかしさ倍増だ。
「違う。分からないだけだし」
ついムキになって言い返すと、くすくすと笑い声が聞こえた。
「連れてってあげるよ。苗字は?」
「佐藤」
さっきまでの警戒はどこへやら、すぐに苗字を言った自分に驚いた。
それに、さっきから変な気分なのだ。
何か、ドキドキしている。
男の子を横目でじっくり見てみた。
黒色の短髪で、きりっと一重の目。整った鼻筋に、優しい笑みを浮かべる唇。
大人な物腰に、私は惹かれていた。
一目惚れ……なのかな。
「ここから1番近い佐藤さん家はあそこかな。行こう」
彼はすっと立ち上がると、私の手を取った。
いやらしさとかはなく、自然に。だから私も握り返してしまう。男の子は力強い歩みで、どんどん私の手を引いて進んだ。
頼りがいのある大きな背中に、胸の鼓動は速くなるばかり。
今、たった今会ったばかりなのに。
私は彼が好きだと感じた。
最初のコメントを投稿しよう!