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「はい、着いたよ」
手を引かれ、連れてこられた場所は確かにお婆ちゃん家の前だった。
あっという間に着いてしまったことが、とても残念に思う自分がいる。
「夏休みだから、佐藤さん家に遊びに来たんだ?」
「あ、うん」
彼は見知らぬ顔がいることから、見事にそう推測していた。ぽぉっと間近で見つめながら、頷く。
「それじゃ」
彼は私の手を離し、もう片方の手をあげて立ち去ろうとした。
待って。
そういいたいのに、勇気がなくて言葉にできない。
「ありがとう!」
意気地なしの私には、そう言うのが精一杯だった。
彼が握っていた右手が、ほんのり暖かく、胸を締め付けた。
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