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気づけば空が茜色に染まり始め、日も遠慮がちに落ちていく。
私はまだ、まだ……と、時間が少しでも伸びることを祈っていた。
しかし、状況に気づいた彼は、そっとブランコから立ち上がる。
「もう帰ろう。送るよ」
紳士な態度に、胸がときめいた。家までの短い距離でも、まだ一緒にいられるのだと、すごく小さなことなのに嬉しくなる。
「うん。ありがとう」
きっといつもより声のトーンがあがっている私は、赤く照らされている彼に微笑んだ。
楽しい時間は、無情にもあっという間に過ぎていく。
少し話しただけなのに、気づけば家の前だった。
「ばいばい」
名残惜しくて俯くと、彼の黒い影が手をあげる。
「……ばいばい」
私も手をあげると、影は少しづつ遠ざかろうとしていた。
ああ、行ってしまう。
そう思ったら、もうこれで一生会えない気がした。
「待って!」
大きな声を張り上げ、慌てて彼の背中を追いかける。ゆっくりと振り向いた彼は、なんだか嬉しそうに見えた。
「また……会えるかな」
奥手な自分が、積極的な発言をしていることに、内心凄く驚いていて、恥ずかしかった。
でもそんな恥より、彼に会えなくなることのほうが嫌だ。
まだ出会って2日。
だけど今までどんな片想いよりも、強くて熱い気持ちだった。
彼は私の言葉に、笑みを浮かべた。
「明日も、あの公園で待ってる」
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