1866人が本棚に入れています
本棚に追加
「お婆ちゃん」
名前を呼んだのは、心配そうな顔をしたお婆ちゃんだった。私に駆け寄ってきて、安心したようにため息をつく。
「いきなり出て行って帰ってこないから心配したよ。……どうしたの?」
お婆ちゃんの優しい声に、いつのまにか涙がとめどなく溢れていた。
会いたいあの人に。
でも、もう二度と会えない。
「香苗は、ここで何かとても大切なものを見つけたのね」
お婆ちゃんの言葉に、強く頷いて、私はいつまでも涙を流し続けた。
さようなら。
名前も知らない、好きな人。
いつかあなたに会ったことを、忘れる日はくるのだろうか。この想いが消える日はくるのだろうか。
分からない。
あなたと一緒にいた期間は、とても短いもので、人生に換算すると小数点以下の時間かもしれないけど、私の想いはとてつもなく大きいものだった。
私は段々と移り変わる景色を見たくなくて、静かに目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!