笑顔

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俺は絶句していた。 月明かりに照らされて、あいつの頬に光る涙を見たから。 俺とあいつ、こと紗耶香は家が隣同士の幼なじみだった。幼稚園の頃から一緒で、お互いが傍にいることが自然なことだった。 だから当たり前のように、俺は頭の良い紗耶香に宿題を見せて貰おうと、いささか不純な動機で隣の家へ入る。 だが紗耶香が見当たらない。おばさんに聞いても、部屋にいたはずだと言っているし。 困り果て、ベランダへ出た時にようやく紗耶香を発見した。 すぐさま声をかけようと思ったのに、それができなかった。そう、あいつが泣いていたから。 紗耶香の涙を見たのは、長年一緒にいる俺でも初めてだった。
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