笑顔

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「よっ」 ごく自然に、何も見なかったことにする。紗耶香は闇に紛れて、涙を拭っていた。 「なに?今日も宿題?」 「あ……おう」 あまりにも自然すぎだ。紗耶香はさっきまで泣いていたとは思えないほど、笑顔で俺に言った。逆にこっちが戸惑ってしまう。 「たまには自分でやりなよ」 紗耶香はそう呆れながらも、明るい部屋へ入ってきた。 涙のかけらも見えない。 だけど俺にはなんとなく分かった。こいつが無理していること。強がっていること。 「なんで泣いてたんだよ」 それが分かった上で、俺は聞かずにはいられなかった。紗耶香がどう思うかも考えずに、口走ってしまう。 案の定、肩をビクリと揺らし、目を丸くしている。
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