笑顔

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「なんのこと?」 紗耶香は見事にとぼけてみせた。そんなものが俺に通用するはずないって分かってるはずなのに。 「ふざけんな。言えよ」 俺の命令口調に、紗耶香は少しムッとした顔になる。そりゃそうだろう。俺でもそんな言い方されたら掴みかかるかもしれない。 紗耶香は俺から目をそらすとため息をついた。 「雅人には関係ないじゃん」 関係ないと言われたらお終いだ。確かにいくら幼なじみだからって、何もかも知り合えているわけでもないし、話す必要だってない。 だけど俺は凄く腹がたった。 心配して言ってやってんのに、そんな風にあしらわれる意味が分からない。 何よりも話してくれないことが、俺を信用していないみたいで悔しかった。 「ああ、そうかよ!」 俺は大声でそう叫び、壁を殴って悪態をついてから紗耶香の家を後にした。 喧嘩したのは何年振りだろうか。 俺は家に入りながらそう考えていた。
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