笑顔

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翌日の朝。こんなときに限って家を出るタイミングが一緒になってしまう。 お互い目が合ったのだが、俺から思い切りそらした。ガキみたいだなと思ったけど、自分から折れるのはプライドが許さない。 「あの、雅人っ」 紗耶香を無視して、通学路をいつもより速めに歩いていると、後ろから駆けてくる足音と声がした。 条件反射で足を止めてしまったが、振り向くことはしなかった。 「待って……あのさ」 紗耶香は息を切らしながら俺に追いつくと、間髪入れずに喋りだす。 「昨日はごめんね」 まさかの謝罪だった。 紗耶香がこんな早くに折れるとは思わなかったから、少し驚いてしまったけど「おぅ」と小さく返事をする。 「泣いてたのがばれたのが恥ずかしくてさ。理由もくだらないことだから気にしないで」 そう言って笑った紗耶香は、とても悲しそうな顔をしていた。 嘘つけ。 俺は心の中でそう呟いた。くだらない理由だったら、お前が泣くはずねぇだろ。 俺は分かっていたけど、知らないふりをして頷いておいた。
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