笑顔

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するとふと人気のない公園の前にやってきていた。暗がりの中に目を凝らすと、ブランコに座る人影を見る。 暗くてよく分からないが、背丈や格好が紗耶香っぽかった。 そっと近づいて確認しようとする。しかしあっちが俺に気がついて、びくりと肩を揺らした。 「紗耶香?」 人影にそう聞いてみると、弱々しい返事が返ってきた。 「……雅人」 やっぱり紗耶香だったのか。俺は駆け足で近寄った。微かに揺れていたブランコが、ゆっくりと止まる。 「なにやってんだよこんなとこで」 俺は自分がきていたジャンパーを紗耶香にかけた。冬の冷えるこの夜中に、薄いブレザーの制服だけで寒くないはずがない。案の定、紗耶香は小刻みに震えていた。 「ごめん、ありがと」 その声にはいつもの強さと元気が全く感じられなかった。 何かあったんだな。 それは一目瞭然だったが、尋ねる前に母さんと美智代さんに電話をした。 「紗耶香見つけた。連れて帰るから安心して」 美智代さんは俺の言葉を聞いて、安堵のため息をついていた。電話を終えて紗耶香を振り返る。
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