笑顔

19/28
前へ
/304ページ
次へ
「やめてっ!」 その瞬間、紗耶香の一際大きな声が響き、俺は拳を無意識に止めていた。 なんで、こいつを殴らせてくれねぇんだよ。 「雅人お願い」 なんでこんな奴を庇う必要があるんだよ。 こんなの、あの強気な紗耶香じゃねぇ。 「なんでだよっ!なんでこんな奴っ……」 「お願い」 紗耶香は消え入りそうな声で呟くと、涙を流した。あの日見たときと、同じように静かに。 俺は全てが繋がったような気がした。 最近紗耶香の様子がおかしかったのは、全部高梨のせいだったのだ。 「行くぞ」 俺ははらわたが煮え繰り返る思いだったが、紗耶香の涙はこれ以上見たくなくて、震える細い腕を掴んで屋上を出た。 高梨は何も言わずに笑っていた。紗耶香はその笑い声を聞いて、小さく震えた。
/304ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1866人が本棚に入れています
本棚に追加