愛さなくていいよ

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お葬式には、たくさんの人で溢れていた。クラスメートや、担任の先生。サッカー部の先輩、後輩。 みんな涙を流している。 先輩はこんなにもたくさんの人に愛されていたんだね。もちろん、私もその中のひとり。 まだ信じられないよ。先輩がこの世にいないなんて。 「あなた……綾乃さん?」 喪服で目を真っ赤にしたおばさんが、放心状態の私に声をかけてきた。声をだすのも辛くて、ただ頷く。 すると一枚の封筒を差し出してきた。 「病室の引き出しに、これが入っていたの」 そこには綺麗な先輩の文字で、「綾乃へ」と書かれていた。もう二度と、先輩に呼ばれることはない名前。 それを見るだけて涙が零れそう。 ただでさえ、ボロボロな私に、すぐに手紙を読む勇気はなかった。 葬儀が終わり、家に帰った私は部屋に引きこもった。この世で1番愛した人がいなくなった。 最後に思いすら伝えられないまま、消えてしまったのだ。 もう手を伸ばしても届かない。
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