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夏も終わりに近づいて、周りの緑が少しずつ褪せてくる。肌にまとわりつくような暑さはもうないけれど、長袖を着るにはまだ暑い。
空は真っ青で、太陽がしつこく地上を照りつける日、僕は悪夢を見た。
悪夢、と言っても、うなされはしない。人がたくさん死んで、しかもグロテスクだったから、内容的にはしっかり悪夢なんだろう。
だけど僕は、うなされないし、汗もかかない。何時ものように静かに目が覚めて、眠気も引きずらずに布団から出た。
多分、うなされるような繊細な神経など、とっくになくしたんだと思う。
アイロンもかけてないワイシャツを、干してあったハンガーから直接着て、制服のズボンをはく。
朝食は、いいか、朝からものを食べる気にはならないし。
朝食が1日の活力の元だとはいうけれど。
7時半少し前、早々に古い貸家を出て高校まで歩く。歩いて10分の距離にあるから、なんとなく自転車は避けている。
貸家の近くのゴミステーションで2羽の鴉がゴミをあさっていた。
まだ通勤にも通学にも早いらしく、車、人通り共に少ない。
線路沿いの道を歩く。2車両の短い緑の電車がリズムよく音をたてて追い越していった。
僕は「住みよい町を!」と叫ぶ選挙の看板を横目に学校を眺める。
教育をするためのその施設は、下らない生物の温床に見えた。僕もその下らない生物の一つだと、自覚してはいる。だけど、決定的に違うということも知っている。
その違いは決定的でいて、どうでもない事ではあるけれど。
校舎内に入り、教室へ向かう。三階にある二年三組はまだ誰もいなかった。
僕は鞄を置いて窓の近くに立つ。眼下を通り過ぎる、校舎に入っていくまだ少ない生徒を一人一人確認する。
始業50分前、万が一にも見落としてはいけない。万が一にも彼女より遅くなってはいけない。
僕はジッと窓の下を眺め続けた。
クラスに一人目の生徒が入ってきた。僕は窓の下から目を離さないから、男か女かは分からない。ただ、後ろの方でイスを引く音がしたから、席についたのだろう。
しばらくして勢いよくドアが開き、また一人クラスに誰かが入ってきた。
「うっす。おはよ」「よー、これヤバいんだけど」
背後で挨拶が交わされどちらも男だと気付く。
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