上原早紀 二

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 こういう扱いは慣れている。気分が良いものでは無いが、この繰り返しが次に繋がるのだ。  早紀は手帳を片手に、柿崎邸の周りを少し歩く事にした。  彼女がこの地区に流れ着いて、二週間が経とうとしていた。  今や奥様方の井戸端会議が始まる時間や場所、ゴミ集積場の位置なども把握している。  庭や洗濯物を見れば、その家の概略も分かるものだ。  子供の有無、年寄りの数、家族の年齢層、奥様の性格や配偶者の有無。  些細な情報も逐一チェックし、入念な下調べを終えて仕事に入る。  それが彼女のスタイルだった。  柿崎邸の庭は、流行のラティスでお洒落に仕切られていた。  こげ茶色の木製ラティスは早紀の背よりも大分高かったが、格子の間からは中の様子がよく見えた。  子ども用のビニールプールが逆さに干されている。その台は早紀の腰ほどの小屋だった。犬だ。  暑さに辟易した犬は、尻尾の先だけをだらりと小屋から出している。レトリーバーだろうか。  尻尾の大きさから見ても大型の犬に思えた。早紀は思わず顔をしかめて舌打ちする。 「チッ、犬かよ……」  犬は天敵だ。鎖に繋がれていても油断がならない。
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