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こういう扱いは慣れている。気分が良いものでは無いが、この繰り返しが次に繋がるのだ。
早紀は手帳を片手に、柿崎邸の周りを少し歩く事にした。
彼女がこの地区に流れ着いて、二週間が経とうとしていた。
今や奥様方の井戸端会議が始まる時間や場所、ゴミ集積場の位置なども把握している。
庭や洗濯物を見れば、その家の概略も分かるものだ。
子供の有無、年寄りの数、家族の年齢層、奥様の性格や配偶者の有無。
些細な情報も逐一チェックし、入念な下調べを終えて仕事に入る。
それが彼女のスタイルだった。
柿崎邸の庭は、流行のラティスでお洒落に仕切られていた。
こげ茶色の木製ラティスは早紀の背よりも大分高かったが、格子の間からは中の様子がよく見えた。
子ども用のビニールプールが逆さに干されている。その台は早紀の腰ほどの小屋だった。犬だ。
暑さに辟易した犬は、尻尾の先だけをだらりと小屋から出している。レトリーバーだろうか。
尻尾の大きさから見ても大型の犬に思えた。早紀は思わず顔をしかめて舌打ちする。
「チッ、犬かよ……」
犬は天敵だ。鎖に繋がれていても油断がならない。
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