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門扉に犬ステッカーも貼っていない事を考えると、首輪もロクに着けられていない可能性だってある。
先ほどの走り書きの横に大きく「犬」と書き込み、裏手から回りこんで早紀は洋風建築の沢田邸へ戻った。
沢田邸の庭は生垣で蔽われていた。高い槙の生垣は、細い葉が特徴的で、綺麗に刈り込んである。
「やっぱコッチかな」
実のところ沢田邸は下調べが終っていて、夫・妻・子供の三人暮らしだ。子供は高校生で、夜遅くまで塾通いの日々らしい。
夫は会社員で平日は仕事。妻は午後のカルチャーセンター通いが専らの楽しみの様だ。
その生活ぶりは、容易に経済的な余裕を感じさせる。早紀は、明日改めて沢田邸を訪問することにした。
「さあて、今日はお仕舞っ!」
仕事にひと区切りを付けた早紀は、足取りも軽やかに大きな通りへ向かう。
早紀にはある決まりがあった。それは、月に一度ホテルに泊まる事。景気付けと、自分へのご褒美だ。
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