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入り口から大股で歩いてきた彼は、ケピ帽と呼ばれる円筒形のカッチリした帽子を被り、フィットし過ぎた制服に巨体を締められていた。
太い首は詰襟から盛り上がり、素人の体つきではない。
刈り上げた側頭部には、襟足に掛けてバリカンで刈っただろう一本のラインが見える。
「まだ分からない。誰が来ても案内するだけです」
「……」
幾らか残念そうに下を向き、受付の台に帽子を置いた。
現れた短いソフトモヒカンは頭頂部が明るい茶色に染めてある。
浅黒い肌に似合っていると言えないことも無いが、周囲にかなりの威圧感を与えるはずだ。耳にピアスが無いのが救いだった。
「木下君、帽子をそこに置かないで下さい」
冷たく言い放された木下は、大きな肩を申し訳無さそうに丸め頭を下げる。
その時、周囲の景色がにわかに白み始めた。
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