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淡い光を帯びた白いもやが、徐々に広がっていく。しかし、環も木下も一切驚くことなく、その場に立ち尽くしている。
次第に視界がもやに侵され、自分の手でさえ確認できない深い白の闇に包まれた。
闇の向こうで、環の声がする。
「今日は女性のようですよ」
木下の身体に緊張が走る。
「上原早紀、二十五歳。なかなか大変な女だ」
環は大きなため息をついた。
「……」
木下も、黙って落胆する。環とは別の理由だ。そうしている内に、段々と視界が晴れていく。
輪郭を取り戻していく風景に、つい先ほどのビジネスホテルの面影は無かった。
豪華なシャンデリアが天井一杯に吊るされた、少し古めかしい印象の豪華なホテルだ。
そのロビーは広く、奥に位置するフロントの真ん中に、環がぽつんと立っていた。
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