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彼のスーツは素っ頓狂な鶯色に変わっていた。
所々に桜色のラインが入り、スーツと同系色のネクタイには金色のネクタイピンが留めてあった。
「に、似合ってるッスよ」
環は金色のピンが特に気に入らない様子だ。ネクタイを指で摘み、その妙に光るネクタイピンを眺めている。
「……悪趣味だ」
眉をひそめてぼそりと呟き、指を離す。ぱさりと落ちたネクタイに、ため息をふり掛けた。
一方木下も、鶯色の詰襟に衣替えしていた。
相変わらず窮屈そうに巨体を納めているが、本人はそれほど意に介しているようには見えない。
ケピ帽にしてはつば広の帽子を、深く被りこんでいた。
「どうスか?」
にっこり笑って姿勢を正す。
「……」
ちらりと一瞥すると、環は黙ってフロントの書類に視線を移した。
冷たい仕打ちにも最近慣れては来たが、紛らわせない気まずさに木下は肩をすくめる。
「あー、えーと。……さて、仕事仕事」
誰に聞かせるでもない台詞を空に漏らし、早足にエントランスの持ち場へ向かった。
今日の客を迎える為に。
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