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乙姫「かわいいんですけどねえ……」
そう言うだけで、彼女は動こうとしない。それは、アティルのような余裕からでも、ミナトのようなけだるさからでも、秋風のように罠を構えているが故のことでもなく、単純に、戦いそのものに躊躇いを覚えているから。
乙姫「できればお友達になりたいんですが、他の人達はあなたのお仲間を倒してるでしょうから、無理ですよねえ……」
その言葉が引き金になったのか……。
虎は彼女目掛けて地を駆ける。
しかし、その行動は実を結ばなかった──。
乙姫が弓を構える。だが、矢も持たずに何をしようと言うのか。
乙姫「──『微風刀風』」
彼女が弓を軽く振ったその瞬間──。
そよ風が吹き、そして、その後──。
虎はバラバラになった。
手足も頭も胴体も尻尾も──あらゆる部位が細切れにされ、地に落ちていく。
乙姫「ごめんなさい、虎さん。私、行かなきゃいけないので」
そう言ったが最後、彼女はもう振り向くことすらなく、スタート地点へと走り出した。
乙姫「ああ……誰か一人でも、殺さずに連れ帰ってくれないかしら」
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