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サーティー「しかしまあ、寝覚めが悪いね」
そう言ったのは、果して『どの』サーティーだろうか。
虎の周囲には人、人、人──。サーティー・サウザンドという名の人間で作られた、人間の森。
サーティー「猫の類は嫌いじゃないんだ。だからまあ……乙姫の言うことも分からなくはない」
また、別の場所からの声。
もちろん虎も何もしていないわけではない。その爪で引き裂き、その牙で食いちぎっていく。
しかし、それは幻──。
霧のように散り、霧散するだけ──。
サーティー「けどまあ……。やっぱり虎ってのは猛獣だからな。そう簡単には馴れ合えねえよ」
そう言った彼は……虎の目の前にいた。
もちろん虎はそのチャンスを逃さない。引き裂き、食いちぎる。
盛大に血が噴き出し、虎の喉を潤していく。そのまま脇目もふらず、食事にかかる虎……。
しかし──。
──美味いか?
──自分の腕は?
そんな声が──聞こえた。
声の主は、今まさに捕食されている男……サーティー・サウザンド。
いや、彼『だった』もの──。
人間の成れの果て。
その──はずだった。
しかし、実際にそこにあったのは、虎の腕。
・・・・・・・・・・・
まるで食われたように血
・・・・
まみれの──虎の腕。
サーティー「悪いな……。まだ食われるわけにはいかんのよ」
そう言って、剣を振り下ろす──。
サーティー「やっぱり騙す方が気楽だな……。なんであれ、殺しは寝覚めが悪い」
そう言って、仲間の下へと歩きだした。
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