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夜通し走り続けた翌夕刻
『こんばんは~』
今にも雨が降りだしそうな空から逃げるように走ると山間の一軒の農家を見つけた
テントを持たない野宿派の俺でもさすがに雨ざらしの地べたに寝るほどの根性はない。
バス停、橋の下
どちらもこの山間には適当な野宿できそうな場所は見当たらなかった。
軒先に香る夕げの匂いに誘われてバイクを乗り入れた
『は~い?』
バイクの音と声に気付き出て来た老婆
俺の成りを見ていぶかしげな表情を浮かべる。
『いきなりですみませんが軒先か納屋でも構わないんで一晩寝床として貸して貰えませんか?』
『いや~家は…』
長髪を後ろで束ね、髭面にピアス。
汚い皮ジャンに色褪せたジーンズと見るからに怪しい俺の姿の申し出に断る言葉を探す老婆の後ろから老人が老婆を押し退けるように顔を覗かせた
『どっから?』
『栃木からです。すみません、夜通し走ってきて雨も降りだしそうなんで軒先か納屋を寝床代わりにお借りしたいんですけど…』
『それだけでええんかいのぉ』
『はい』
『好きなようにしたらええで、見たように若いもんもおらんし爺と婆しかおらんけぇのぉ。盗られる金もないでから(笑)』
皺だらけでありながら健康的に日焼けした笑顔に寝床を確保した
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