プチ放浪

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重ね着したジャケットを脱ぎ、体に着いた埃を叩き落としながら敷居を跨ぐ 『失礼しまぁす』 おずおずと入って行くと老人は卓に着き言った 『そこに座ったらいいわ』 指差す座布団に気が引けて除けて座った テレビの野球中継から俺に目を移し、滴のついた瓶ビールを掲げた 『何もそんな気使わんでええがら』 目の前に置かれていたグラスを持って瓶に向けると黙ったままビールを注いでくれた 『何もないけど』 老人と俺の間に割って入るかのように老婆が芋の煮転がしと鮎の塩焼きを並べてくれた 他には手作りと見てとれる蒟蒻の刺身と糠漬け 『すみません…、なんか…』 『大したモノねぇけんど…』 老人と同じような皺だらけの顔の老婆に他界したお袋を思い出した 『いや、凄いご馳走です』 俺を怪しみながらも老婆が話す 『この鮎は父ちゃんが捕ってくるし、蒟蒻は私が作ってるんだわ。野菜もみんな家のもんだ』 懐かしい味に箸が進む
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