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二人乗り下校。
先輩を荷台に乗せて、柔らかな風邪に吹かれながら自転車をゆったりとこぐ。
周りはきっと僕らをアベックだと思い、これから下校デートですかとでも言うように羨望と嫉妬の眼差しで僕を見るのだ。
それから、先輩は僕の胴に手を回すだろう。自然な成り行きとして、僕の背中には柔らかな何かが押し当てられるのだ。
なかなか悪くない。
「あ」
なかなか悪くない、と思った矢先、僕は重大な事を思い出した。
それは輝かしい二人乗り下校を妨げる矮小なる悪戯だ。
「先輩、すいません。やっぱりダメです。僕の自転車今、誰かが勝手にチェーンロックしたせいで動かせないんですよ」
「へ? どーいうこと?」
昨日の事だった。
放課後にする事など何一つ無い僕は、SHRの終了と同時に真っ直ぐ駐輪場に向かった。二年生にあてられたスペースの一番端に僕の自転車は並んでいる。
昇降口から出てすぐに異変に気が付いた。
後輪に何か銀色に光る物が巻き付いていた。遠目に見ても、陽光を力強く跳ね返していて眩しい。
それは銀色の鎖。四桁のダイアルロック。フレームを巻き込んで後輪が固められていた。
ダイアルは0から6のありふれたタイプの物だったが、何かマジックのようなもので四つの数字が赤く塗られている。
0と6と0と1。
試しに0601に合わせてみたが、ロックはうんともすんともいわなかった。思わせ振りだ。
誰の仕業かはまるで見当がつかなかった。
盗まれたのならまだ理解できる。しかし、そうではなくチェーンでロックされただけなのだ。正規の鍵は僕がかけたままの状態。これで誰にも動かせない自転車が一台誕生したわけだ。
その日も今朝も歩いて登下校した。運動療法と割り切れない僕は心が狭いだろうか。
「そりゃ大変だったね。二千四百通り試す程の根気は無いわなあ。あ、だったら私の卵焼き返してよ。あっ、コラ! 食ったな! え、じゃないよ! 今のはわざとだろ!」
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