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   私は東京に引っ越す。  山ばっかりのこの田舎町から東京へ、夏休みに入ればすぐに引っ越し。  理由は簡単、父親の転勤。左遷なんかじゃなくて、むしろ本社勤務。  テレビや雑誌で見る渋谷に原宿に近付いて有名人達にだって会えちゃう。  高3の夏っていう半端な時期だけど、第一希望の大学だって近くなる。  素晴らしい級友達とはお別れだが、どっちにしろ卒業すれば皆進路はバラバラだ。お別れが少し早まるだけ。  どう考えても悪くない話。    後ろ髪を引かれるとしたら……。  私は隣で間の抜けた顔をしている男をチラリと横目に盗み見た。    私がやっとの思いで引っ越しのことを彼に伝えた時、彼の反応は素っ気ないものだった。 「へぇー引っ越しですか。いいですねぇ。僕は生まれてからずっと今の団地ですよ。犬とか飼ってみたいんですけどね。ほらやっぱりバター犬が今の流行りじゃないですか」    彼は飄々としたまま残念そうな素振りも見せなかった。その表情には動揺の色さえ見られなかった。私は拍子抜けするとともに、突き刺さるような胸の痛みを感じた。    私のことを好きだ好きだと言う割りに、本当の彼は実に淡白で、その言葉の全てが表面的でしかないのだ。私はさっさと引っ越してしまいたくなった。  そしてそんな風にやけっぱちになる自分は、もしかしたら彼のことが好きなのかもしれない。そう思うと私は自分の男の趣味を疑わずにはいられなかった。   「夏休み入ってすぐでしたよね」 「うん」   「じゃあ先輩のスク水姿は見れずじまいかあ」 「そうだね。残念でした。荷物はもう送り始めてるし。夏休み二日目の夜七時、電車で発つよ」   「二日目は駄目っすよー。一ヶ月も前から企画されてる、ドキッお化けだらけの納涼肝試し大会2009~気になるあの娘をいてこませ~、が控えてるんですよ。高2の夏ですし、そろそろ僕も真の男というものに成らねばならない頃合いでしょう?」 「そっかー。それは一大事だ。急いでその肝試しに参加する乙女に護身術を伝授しなきゃ。この町での最後の仕事かしら」   「ハッハッハー、いらん置き土産はよしてください。まぁとにかく残念ながらお見送りには行けそうにありません。僕が行きたくてももう一人の僕が許してくれません。なぁそうだろ?」  視線を下に落として語りかける彼。    こんな馬鹿野郎に見送られても仕方ない。そう思えた。  
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