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   ◆    階段を上りきると見馴れた扉が僕を待っていた。鈍い銀色をしているが学校の扉にしては綺麗なほうだ。  埃っぽい空間に僕の風邪気味な鼻腔がむずがる。  一つ盛大なくしゃみをしてから、僕はドアノブに手をかけた。鍵はかかっていない。    屋上に出ると刺すような陽光が頭上から降り注ぐ。太陽は僕のちょうど真上にあって、夏のお昼を報せていた。  高く澄んだ空は海みたいな青。遥か向こうにそびえる入道雲は洗い立てのような白。耳から離れないBGMは蝉の鳴き声。  どうしようもなく夏だった。スクール水着の季節だった。  プールから届くカルキの匂いがさらにそれを際立たせた。      僕は薄汚れた上履きのまま、壁にもたれた。  夏休みを目前に控えた七月の風が生暖かく流れていく。鼻水がスッと消えた気がした。  どこからか洩れてくる昼休みの放送を遠くに聞きながら、僕はワイシャツのボタンを一つ外した。  それからチュッパチャップスの棒切れを口の端にくわえる。  
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