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   昼休みに学校の屋上で一人。  爽やかな蒼空とは対照的に寂しくて淋しい話だった。"一人"を"独り"と表記すればさびしさは倍増だ。    そもそも何故、学校の屋上が解放されているのか。長年"してはいけない質問"として片付けられてきたこの問いに、僕は取って付けたような答で返そう。  屋上使用を特別に認められている天文部が、施錠していないまま扉の鍵を無くしてしまったから。  この前、隣のクラスの友達が言ってた。奴は天文部で金星マニア。太陽系じゃ金星が一番エロイとか言う、ちょっとどうかしてる奴。    天体望遠鏡的に言えば、15メートルかそこらでもレンズを覗くのは空に近いほうがいいのだとか。  何光年と遠くの世界を見るってのにたかだか15メートル、大差無いだろうと思ったけど、エロイ物を見るのにテレビ画面に近付きたくなる気持ちは僕にもわかった。    それにしてもせっかく屋上が解放されているのに無人だなんて。そう思うのはアニメの見すぎかマンガの読みすぎ。じゃなかったらその両方。  実際屋上なんてのは小汚ないものだし、フェンスに囲まれていて歩き回れるのはせいぜい教室ぐらいの広さ。  あるのはちょっと大きめのタンクと隅っこに生えた苔ぐらいなもん。  エロイ金星を少しでも近くで見たい、ぐらいの情熱が無きゃ普通は誰も来やしない。    だったら何故、僕はこんなところにいるのか。  僕は放課後まで我慢できない程ニコチン中毒な不良で、喫煙所を探してやって来たのか。  僕はこの世界に絶望した自殺志願者で、自分を救わなかった教師や生徒に当て付けるため飛び降りる場所を探してやって来たのか。  僕はとんでもない助平野郎で、反対側に見える校舎の窓から五限目の体育に備えた女子の着替えを覗きに来たのか。  総じて否だ。やっぱりマンガの読みすぎ。まぁ、最後のはこの手に双眼鏡でもあればやってみたくはあるけども。    ここまで来ればきっと一つの答えに行き着くだろう。  そうつまり、僕が主人公だから、ということだ。    学校の屋上なんかに用があるのは天文部員を除けば、青春ストーリーの主人公だけだ。  天文部じゃない僕は、つまり主人公なのである。     「それはどうかなあ」  
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