5/20
前へ
/44ページ
次へ
  「まぁそんなことよりさ、さっきのはどうかと思うよ」  先輩は僕に弁当箱を返しながら言う。 「さっきの?」 「僕は主人公だ、って独り言漏らすような奴は絶対主人公じゃないよ」  意地悪そうな笑みで僕を横目に見る。  さっきの。気付かぬうちに僕は声に出していたのだろうか。   「それに君には主人公として致命的な欠点があるよ」  ミートボールを箸で摘まみながら先輩は揚々と言った。   「糖尿病じゃ主人公にはなれない」  これぞ真理とでも言うように頷く先輩。    先輩の言うとおり僕は糖尿病を患っていた。信じられるだろうか。齢十七にして、甘いのだ。ションベンが。  原因は多々あるのだろうけれど、多分一番の原因は毎年二月十四日に送られる段ボール数箱分のチョコレート。とか言うとまた先輩に無視されるので口には出さない。   「いや、でもそういう主人公もいないことはないですよ」  僕の精一杯の反論。確かに僕の知る限り一人だけマンガの主人公に糖尿病患者がいる。  先輩は盛大に溜め息を吐き出すと憐憫の眼差しで口を開いた。 「そりゃーさオッサンの話でしょ」  そのとおりだった。   「君まだ十七だよ。セブンティーン。海を見たら飛び込んで、夕陽を見たら駆け出して、バイクがあったら盗んで走り出す年頃でしょう」  最後のは15の夜にしか許されない。いや、15の夜でも許されない。 「古いですよ」 「なっ!? 豊ナメんな!」  先輩は信じられないとでも言うように眉をひそめ、僕の頭にチョップをかました。    それから短く溜め息を吐き出し、更に先輩は続けた。 「君だってまだまだ可能性に溢れてる若者でしょう。そんな生活習慣病みたいなもんにかかってどおしゅんのしゃ」  糾弾するような口振りだが、両のほっぺたが唐揚げで膨らんでるもんだから至極愛らしい。唐揚げとプチトマト交換してくれないかな。  
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加