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「まぁそんなことよりさ、さっきのはどうかと思うよ」
先輩は僕に弁当箱を返しながら言う。
「さっきの?」
「僕は主人公だ、って独り言漏らすような奴は絶対主人公じゃないよ」
意地悪そうな笑みで僕を横目に見る。
さっきの。気付かぬうちに僕は声に出していたのだろうか。
「それに君には主人公として致命的な欠点があるよ」
ミートボールを箸で摘まみながら先輩は揚々と言った。
「糖尿病じゃ主人公にはなれない」
これぞ真理とでも言うように頷く先輩。
先輩の言うとおり僕は糖尿病を患っていた。信じられるだろうか。齢十七にして、甘いのだ。ションベンが。
原因は多々あるのだろうけれど、多分一番の原因は毎年二月十四日に送られる段ボール数箱分のチョコレート。とか言うとまた先輩に無視されるので口には出さない。
「いや、でもそういう主人公もいないことはないですよ」
僕の精一杯の反論。確かに僕の知る限り一人だけマンガの主人公に糖尿病患者がいる。
先輩は盛大に溜め息を吐き出すと憐憫の眼差しで口を開いた。
「そりゃーさオッサンの話でしょ」
そのとおりだった。
「君まだ十七だよ。セブンティーン。海を見たら飛び込んで、夕陽を見たら駆け出して、バイクがあったら盗んで走り出す年頃でしょう」
最後のは15の夜にしか許されない。いや、15の夜でも許されない。
「古いですよ」
「なっ!? 豊ナメんな!」
先輩は信じられないとでも言うように眉をひそめ、僕の頭にチョップをかました。
それから短く溜め息を吐き出し、更に先輩は続けた。
「君だってまだまだ可能性に溢れてる若者でしょう。そんな生活習慣病みたいなもんにかかってどおしゅんのしゃ」
糾弾するような口振りだが、両のほっぺたが唐揚げで膨らんでるもんだから至極愛らしい。唐揚げとプチトマト交換してくれないかな。
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