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   ◇    気だるそうに頭を振る後輩に尋ねてみた。 「君さホントに糖尿病なの?」  私はたまごのフリカケが散らされたご飯を頬張った。  食事中に尿の話なんて、とは思うけど糖が入ってるとそこまで下品に感じない。不思議な話。   「ホントですよ。糖入ってます。なんならなめてみますか」  私は間髪入れずに彼の足を踵で踏む。踏んだっていうより踏み潰した。上履きのはじっこ。小指があるあたり。    彼が声にならない悲鳴を上げる横で、私はキュウリが差し込まれたチクワを摘まむ。  実際どーなんだろ。  この前何とはなしに糖尿病について調べてみた。  十七歳で糖尿病の主人公は、広く深いサブカルチャー界を探してもきっと一人もいない。それでも十七歳で糖尿病を発症すること自体は、それほど珍しくないらしい。   「君のは1型でしょう」 「そうです。詳しいですね」  1型糖尿病。かつて小児糖尿病と呼ばれた病。  患者は甘やかされて育った過度の肥満体なのがセオリーだが、彼はそこから大きく外れている。    背は私より拳一つ分高く、ムカツクぐらいスマートな体つき。足も長くて制服の黒がそれを強調する。  顔の作りは全体的に切れ長で、短髪から清潔さがうかがえる。  性格はともかくとしても、こんなに爽やかなルックスで何故に糖尿病なのかな。人体の神秘だ。   「あーあー。夏だってのに風邪引きでプールにも入れない」  彼は青空を仰ぎながらそう呟いた。遠い目をして何かに想いを馳せている。どうせビキニとか谷間とかそーいうの。 「気兼ね無く近くでスク水を見れるのも来年までなのにな……」  夏の終わりを惜しむような切ない顔で言うけれど、言ってる内容が最低だった。まだティーバックとかのほうがマシだよ。    彼は未だにお弁当に手を付けず、もはやトレードマークになりつつあるキャンディーの棒を弄んでいる。 「またそんなもんなめて。控えなよ」 「いやいや先輩。これはただの棒です」  言いながら口端の白い棒を抜く。確かに甘い色する糖の塊は見受けられない。 「禁煙パイポってわかります?」 「あー、時代錯誤だね」 「あれのチュッパチャップス版です」  その棒をくわえてるだけで、アメをなめている気になれるらしい。禁アメ。この後輩はちょっとどうかしてる。  
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