嗚呼…素晴らしい父親よ。

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その代わり…とは言えないかも知れないが、距離を決めて走る馬達の順位にお金を賭けたり、時には、船の順位、自転車の順位にもお金を賭ける。 他にも、有料で借りた小さな銀玉を、釘の森を越えさせ穴に落としたり、高速回転する絵柄をボタンひとつで止めたりもする。 そう。 ギャンブルが好きなのだ。 もちろん、趣味の範囲内である。 他人様からお金を借りてまで、どっぷり浸かってるわけではない。 そんな父親の影響なのか、オレは小学校に入る頃には麻雀を打てた。 どんな子供だ。 さらに言えば、父親の膝の上でパチンコのハンドルを握っていたし、スロットの目押しもしていた。 おいちょかぶも出来たし、花札も完璧だった。 どんな子供だ。 …間違いを訂正しておこう。 父親に影響されたわけではない。 父親に教え込まれたのだ。 純粋な子供は怖いくらいになんでも吸収する。 高校生になるまで、これは普通のことなのだと思っていたからまた怖い。 常識がないわけではないのだが、常識的ではないのは確かだ。 常識的に考えたら、子供に麻雀は教えない。 他にもこんなことがあった。 「ハイドロプレーニング現象って知ってるか?」 雨が降り始めた高速道路を、父親とふたりでドライブしてた時の話しだ。 ポツリと父親が呟いた。 当時自動車学校へ行き始めだったオレは、もちろんそんなことは知らない。 「雨が降り始めた時にスピードを出すと、路面とタイヤの間に水の膜が出来る。その膜のせいで、ハンドルが効かなくなる現象だ。」 と、説明してくれた。 さらに続けて 「何キロだったかな…時速110kmくらいで起こるんだったかな」 と言う父親を横目に、スピードメーターに目をやると、140と150の間に針があったのだ。 もう意味がわからない。 「靴買ってやるわ!」 と、オレに対して万札を差し出す父親。 しかし、めんどくさかったから、買ってきて。と頼んだ。 オレは昔から衣類を買いに行くのが大嫌いなのだ。 父親は買い物大好きなんだが。 「わかった。どんな靴がいい?」 と、すんなり了承してくれたので、黒い靴ならなんでもいい、と伝えたのだった。 その日の夕方。 オレの目前に現れたのは、ほぼ真っ白の靴。 黒が見当たらない。 「靴の底が黒いからいいじゃん」 とのこと。 そんな言い分が認められるのか。
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