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「私だけやて!? あんなことしといてようそんなこと言えるわ! しかも別れたくないって……ムシがいいにも程がある…っ!」
言いながら千波は二年前のクリスマスの日にプレゼントされたペアリングを、指から引き抜いた。
それを良平に向かって投げ付ける。
「今すぐ出てってよ! 私の視界から消えて…っ!」
良平は頭を上げて悲しそうに千波を見上げた。
その目からは涙が流れ、頬を伝っている。
だがそれさえ、今は千波を苛立たせるだけだった。
「泣きたいのはこっちや……!」
そう叫ぶと、千波は良平の腕を掴み上げ、無理矢理その体を立たせた。
「ちぃ、頼む、話を……」
「うるさい、うるさい!」
我を失ったように叫び、拳で良平の体を叩く。
さすがに今は落ち着いて話ができないと悟ったのか、良平は諦めたように足を玄関へと向けた。
靴を履いたところで一度千波を振り返る。
そしてためらいがちに口を開いた。
「………ちぃ。もう一度、落ち着いたら話す機会くれ。俺は絶対、ちぃと別れたくない」
「……………」
「ムシがええって思われてもしゃーないけど…それが俺の本音や」
千波は畳の上に転がったままの指輪を拾い上げ、それを再び良平に向かって投げ付けた。
「うるさい…! 出てけ…っ!」
そのまま畳に伏せ、千波は大声を出して狂ったように泣き出した。
その号泣を聞き、良平は唇を噛み締める。
「………傷付けて、ごめん」
ポツリとそれだけを呟き、良平は静かに引き戸を開けて出て行った。
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