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明けない夜はない、必ず朝は来るから……などと、よく前向きな言葉で使われるが───。
この日の千波は、二度と朝なんか来なければいいとさえ思っていた。
しかし当然、その時間になれば朝日は昇ってくる訳で……。
(………うー、一睡もできんかった……)
いつもの起床時間、千波はのそのそとベッドから這い出た。
(都会のどっかの企業やったら失恋休みとかってあるって聞いたけど……)
ボーッと歯を磨く自分の顔を鏡で見つめながら、千波は溜息をついた。
だが家に一人でいて鬱々と悲観的に悩んでいるよりは、仕事をしているほうがまだ気も紛れるかもしれない。
そう気を取り直し、千波は出掛ける準備を始めた。
だがこの年になると、徹夜が如実に顔に表れる。
クマを化粧で隠す前に、ファンデーションがまず肌に乗っていかない。
それでもなんとか身なりを整え、いつもより遅めに家を出発した。
昨夜、良平からかなり長文の謝罪メールが届いた。
言い訳はしないと言いながら、その内容は殆どが言い訳で。
ちぃしか好きじゃない、別れたくないと締め括られたその言葉も、千波の心にはカケラも響いてはこなかった。
「………おはようございまーす」
いつものように店の横に自転車を止め、裏口から店内に入る。
タイムカードを押したその時、背後から突然声をかけられた。
「おはよう、江崎さん」
「……あ、店長。おはようございます」
いつも昼ごろ店に来る店長が朝からいたので、千波は軽く面食らいながら挨拶を返した。
「ちょっと話あるんやけど……」
そう言って手招きする店長を、千波は怪訝な思いで見つめ返した。
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