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「………今日付けで……解雇?」
突然突き付けられた言葉に、一瞬意味がわからずに千波はぼんやりと店長の口元を見つめた。
いつもはどっしりと構えている店長が、何故か今はソワソワしたように千波と目を合わせない。
ようやく意味を理解した千波は、顔から血の気が引いていくのを感じた。
「それって……クビってことですか?」
「いや、まあ、その……」
「どうしてですか? 私何か至らないことでも…?」
「いや、江崎さんはよくやってくれてるよ」
「じゃあ、どうして……」
よくやっているのなら何故解雇を言い渡されなければならないのか。
全くもって理解ができない。
「そんなこと……いきなり言われても困ります。生活は私が支えてるし、祖母も入院して……」
「いや、それはほんまに重々わかってるんやけど……」
そこで店長はガバッと千波に向かって頭を下げた。
「ほんまに申し訳ない! 江崎さんには何の落ち度もないんやけど…。ただ兄貴に頼まれてしもて……」
「……………は?」
「兄貴の娘…まあ僕の姪やねんけど、短大卒業してから就職が決まれへんかって…とりあえずお前の所で預かってくれへんかって頭下げられてしもてなぁ……」
「……………」
千波は言葉を無くしてしまった。
………つまりその姪をここに勤めさせる為に、自分が代わりに弾き出されるという訳か。
「うちもこれ以上従業員増やす程の余裕はないし……ほんまに苦渋の決断で……」
申し訳なさそうに言って深く頭を下げる店長のつむじを見つめながら、千波はもう反論する気にもなれなかった。
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