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(……聞かれた……笑われた……)
歩道の端に停めていた自転車の前カゴにバッグを入れた千波は、たまらずその場でへたりこんでしまった。
恥ずかしさで耳まで熱くなっている。
千波は両手で頬を押さえ、ぎゅっと目を瞑った。
(なんで……!? いつももっと明るいうちに来てるのに、なんでよりによってこんな……)
一体いつからあそこにいて、千波を見ていたのだろう。
花束を海に叩き付けるなんて、とんでもない女だと思っただろうか。
そもそも海に向かってバカヤローなんて、最近の漫画やドラマでもなかなかお目にかかれないというのに、妙齢の女が仁王立ちで叫んでいるのを目の当たりにして、どう思っただろう。
(絶対変な女って思われたっ! もう顔合わせられへん…っ)
サドルにしがみついていた千波は、しかしそこでハタと我に返った。
(そっか…どっちにしろ、もう二度と会うことなんかないか……)
明日からここに来ることはもうないのだから、男性と顔を合わせるのも今日が最後だろう。
………それがこんな最悪な形で終わるなんて……。
目頭がグッと熱くなったその時、カゴに置かれたバッグの中の携帯が鳴った。
千波は顔を上げて立ち上がる。
良平からかと思って一瞬ためらったが、名前を見ると圭子からだった。
『もしもし、千波? あんた今どこにおるん?』
「……………っ」
圭子の声を耳にした千波は、今までずっと堪えていたものが一気に溢れ出してしまった。
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