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リレーの走者に半ば無理やり決められた少女は困惑していた。
小学生の頃から運動音痴で、50m走は11秒台。
自分より遅い子がいるとはいえ、やはり遅いには違いない。
そんな少女がなぜ選ばれたかというと、クラスの誰も、リレーをしたがらなかったからである。
唯一、何の競技にでるか決まっていなかった少女はその流されやすい性格からクラスメイトたちに押し切られ、
そしてついに走者として選ばれてしまったのである。
プレッシャーだった。
第1走者、第2走者ともに運動部所属の、足の速さで言えばクラスの中で1、2位を争うほどだった。
そして第4走者。
アンカーとしてあがったのは、運動部所属どころか部活動をしていない子であった。
しかし足は速く、体育の授業ではオールマイティになんでもこなす、いわば運動音痴の少女とは正反対の子である。今の順位は4組・2組・1組・3組の順番である。
特に前の2つ──、つまり自分のクラスの4組とライバルである2組は接戦だった。
抜かし、抜かされ、また抜かす。みんなの歓声に力が入る。
迫り来る第2走者、赤いバトン。
早く走らねば、というプレッシャー。
なんとしてでも最下位になることは許されなかった。
赤いバトンが手に触れた。
受け取るだけでいい。抜かされなければいい。
「あっ」
カランッ
少女の声と、バトンが落ちる音は同時であった。
赤いバトンが運動場のグラウンドでカラン、カラン、カランと音を立てた。
なんとしてでも最下位になることは許されなかった。
最下位のクラスは、腕立て・腹筋・背筋・スクワットをそれぞれ30回。
合計120回分のペナルティがまっているのだ。
負けたときのみんなの視線が怖かった。
床で小さくバウンドして砂がついた真っ赤なバトンを拾い上げ、全力で走った。
体制を整えて走り出したときには、3位であった1組が自分の横を通り過ぎていった。
真後ろでは、息遣いが聞こえる。砂を蹴る音がする。
すぐそこに、4位だった3組が迫ってきている。
走って走って走って、やっと次の人に押し付けるようにバトンを渡した。
第4走者だった彼女は早かった。
それはもう、驚くべき早さで差を縮め、そして1位になっていた2組の子に並ぶ。
クラス全員が、叫んでいた。
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