走る! 走る! 走る!

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「お疲れ様でした。」 生徒の挨拶の声に「はい、お疲れ様。」と返事をして先生が去っていく。 腕立て・腹筋・背筋・スクワットを各30回のペナルティを終えた少女はぐったりと座り込んだ。 少女だけでなく、4組全員がぐったりしていた。 3位に転落した4組が2位へと追い上げ、1位だった2組と並び、みんなの歓声と感情が一気に高ぶったあの瞬間。 第4走者であった子の足がもつれ、ころんでしまったのだ。歓声を上げていたみんなの声がとまるほど、派手に。 立ち上がり、バトンを拾い上げ、すりむいて痛むであろう片足をひょこひょこさせながらゴールまで必死にたどり着く。彼女の瞳に涙は一度もにじまなかった。 結局4組は負けたのだ。 最下位クラスはペナルティ。 地獄のメニューを言い渡される。 みんなの視線が痛かった。少女は泣きそうになった。 「惜しかったね。ごめんね。」 誰かがそういった。 ふと見上げるとそこには第4走者だった彼女がいた。 「私がこけちゃったから。無駄にしちゃってごめんね、必死に3位を守ってくれてたのに。」 涙が溢れた。 「でも、本番は頑張ろうね!次は1位だー!!」 明るく笑う彼女。 擦りむいてあちこち痛むであろうに、何事もないというように笑っている。 彼女のプライドが、彼女自身を泣かさないのだ。弱音を吐かせないのだ。 この試合はなんとしてでも負けられなかった。 彼女の想いを知って、本番はなんとしてでも負けていられなくなった。 必ず1位を勝ち取って見せるから。そして1位のままバトンを渡すから。そう言うと、彼女は嬉しそうに微笑み、 「約束だよ!!」 擦り傷や砂がついた、右手の小指を差し出した。 なんとしてでも、1位を勝ち取らねば。 少女の焦りは、いつしか目標となった。 体育大会当日。 学校全体を包み込むほどの大歓声。 その真ん中で泣きながらしっかりと抱き合う第3走者の少女と第4走者の彼女。 果たして勝ったのか負けたのかは、さして重要ではない。 ただ、二人の涙と絆、繋がったバトンと想いが本物だったということは言い切れる。 終
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