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その後のことはよく覚えていません。 気が付いた時には私の手も服も真っ赤で、私は絢爛豪華なこの部屋にやっと溶け込めた気持ちになり、ますます堅く楼二の体を抱きしめました。 楼二は一族の鼻つまみものだったかもしれませんが、同時に神でもあったのです。ひとつの象徴だったのです。この離れはいわゆる祠です。楼二は疎ましがられながら畏れられ、憎まれながら崇められていたのです。最初からいなかったことにされている楼二を殺しても、私は人殺しにはなりませんでした。体面が命より大切な一族は私を訴える訳にもいかず、逃がす訳にもいかず、象徴を失ったままという訳にもいかず、私は望み通りこの部屋から出られなくなりました。 勿論私では楼二の代わりなんかになれません。そう、留守番ですね。いつまた楼二が生まれないとも限りませんから。ですが少なくとも今の私には、この部屋が似つかわしくないとも言えないような、そんな気にもなるのです。 …ああ、どうぞお茶を。冷めてしまいますよ。  
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