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その部屋は極彩色でした。 畳の縁と言えば黒か緑と思い込んでいた私は、晴れ着の帯留のようにキラキラした朱色の縁に驚き、何度も指でなぞりました。といってもそれはこの部屋に訪れるようになって2週間も過ぎてからの話で、最初は部屋の主である楼二が私に語って聞かせる話と楼二そのものに度肝を抜かれ、縁どころではありませんでした。 当時私の住まいは賄い付の下宿屋の2階で、たまの寄り道は古書店か最近急激に増えた洋館のカフェといった極普通の学生でした。洋館が増えたといっても港や山の手のごく一部。私の住む世界は実に地味なものでした。たまに女学生が赤いリボンなんかつけていると、何キロ先からでもぱっと目がいき、しばらく界隈で話題になるほどでした。 私が楼二と出会ったのはそんな時です。私の驚嘆を少しは理解してもらえるでしょうか。髪も瞳も真っ赤な人間がこの世に存在することなど想像もできませんでした。私の想像力が貧困とばかりは言えません。誰も彼もが想像できずにいたはずです。 出会ったと言うより、会わされたと言ったほうがいいでしょうか、残暑厳しい9月末のことでした。
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