7/11

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
一夜にして世界が変わりました。 今まで何と味気ない現実に私は生きていたのでしょう。瞼の裏に焼き付いた極彩色の渦が一日中消えませんでした。3日おきに私はあの部屋に通いました。間の2日間は死んでいたようなものです。 「何故外に出ないんです。鍵もないのに」 相変わらず煙草を口から離さないまま、楼二は視線を宙に浮かせました。 「…生まれつき盲目の男がな」 「はい?」 「ずっと目が見えないまま生きてて、三十を過ぎた頃に医学が発達して、手術で目が見えるようになった」 楼二はとんと灰皿に落としました。 「3日後に自殺したぜ?どう思う?」 楼二の知識は広く深く、しかし総て伝聞です。何一つ手で触れたこともなく、何ひとつ目で見たこともない。伝聞で脳裏に刻まれた「世の中」が直にそれに触れることで崩壊する、その衝撃に耐えられる自信が余りないのだと、楼二は淡々と話しました。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加