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楼二といると気分が麻痺し昂揚し、妙な薬でも吸ったような軽い酩酊感がやってきます。色や楼二にあたって本当に夢でも見ているような、しかも素晴らしい夢でも見ているような。私はそれが、この状況の異様さによるものだと信じていました。同時に焦りもありました。楼二は毎回町中を詳しく描写させ、建物の並びがあやふやになると手をふってうち切ります。 「2軒並びの古書店は先月ひとつ潰れた。今は工事中。その隣が呉服屋」 「あ…。そうでした」 「何処見てんだよ。毎日通ってんだろ?」 自分のぼんやりした生き様や曖昧な記憶力を非難されたようで、私は頬が熱くなりました。楼二がこの部屋に呼ぶのはひとりではないのです。同時進行で他の誰かが別の日に出入りしています。それはもう確かです。その誰かが、若造の私より知識も教養も深く楼二にとって有益な相手なら、私は即座にお役御免になるでしょう。もう3日に一度の夢なしに現実を生きていく自信がありませんでした。そう素直に伝えると、楼二はまじまじと私を眺め、私の傍ににじり寄ってきました。
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