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「歩」 「…はい」 「可愛いな」 今度こそ顔から火が出そうになりました。楼二が突然私の手を握ったのです。別にとんでもなく異常なことではありませんが、免疫のない私はしどろもどろになり、こんなことで動揺する自分にますます嫌気がさしました。 「そんな心配いらねえよ。俺はおまえぐらいの年の学生の話が聞きてえの」 「…じゃあ私でなくても、もっと」 「おまえの目で見た話はおまえからしか聞けない」 私は楼二が好きなんだと自覚したのはその時です。 手が離れた瞬間、本当に、心臓が軋んだのです。音を立てて。 「楼二は…」 「ん?」 「…経験はあるんですか」 とんでもないことを口走りました。楼二が緩く合わせた着物の奥に、覗く二の腕に、気が付くと目を凝らしていた自分に気付いてしまったら最後、何が何でも聞かずにはいられなかったのです。
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