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「……………寒っ…。」
朝の寒さに身振いをし、布団を手繰り寄せてもぞもぞと寝返りを打つ。
芋虫の様に布団を頭まで被ってみるものの、今日の冷え込みは一段と厳しく、身を包む布団は我が身の体温を奪うばかりで一向に温まってくれなかった。
シン―と静まり返る自室。
仕事から帰ってつけていたストーブは、3時間タイマーという安全装置によって、ご丁寧に消火されていた。
時計を見れば、まだ5時前。
仕事には早いが、もうひと寝入りするにはなんとも中途半端である。
「雪でも降ってんのか。」
あまりの寒さと独特な静けさに、全蔵は布団から抜け出すと羽織を肩に掛け、中庭へと続く部屋の障子に手をかけた。
「あー…、こりゃ寒ィ訳だ。」
目の前に広がる一面の雪景色に思わずホゥ…っと溜息が出る。
呼気が白い水蒸気となって消えた先、ふわふわと舞い降りて来る白いあわ雪は、庭木に降り積もるわたあめみたいで。
ふと思い浮かんだ知り合いの顔に、小さく舌打つ。
「何処行ったんだよアイツ…。」
あの日から3日が経過。
坂田がぶっ倒れた翌日、ジャンプを買いに行くついでにと奴の様子を見に行ってやった。
が、子供たち共々留守。
野良猫退治だか何だか知らんが、仕事中で留守だとスナックのばーさんが言っていた。
病み上がってんだか上がってないんだか。
くたばっても知らねーぞ。などと独り言ち、その日はそのまま引きあげた。
その翌日も、ピザの宅配ついでに万事屋を覗いてみたが、そこにいたのは眼鏡くんとチャイナちゃんだけで、肝心の病み上がり亭主はのら猫退治の途中ではぐれてそれきり帰って来ていないと言う。
いい歳した大人が迷子―…な訳ねェか。
あくまでも、“ことのついで”で様子を伺いに行っているだけなのだが、行方不明と言われるとやはり少しだけ心配になる。
それは子供たちも一緒の様で、平然を装ってはいるけれど、眼鏡くんの声が僅かに震えていた。
飯はちゃんと食えてんのかと、配達先不明の出来たてアツアツのピザを手渡し、頭を撫でてやった。
坂田が帰ってきたら1発お見舞いしたいからという名目で、連絡をくれとお願いして。
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