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蛇口を捻り、浴槽に勢いよく熱い湯を溜めていく。
一気に辺りは蒸気に包み込まれ、視界は真っ白だ。
庭で見つけた猫は、一体いつからそこにいたんだか、大層な雪を被り身体は氷の様に芯まで冷え切って、おまけに風呂にも碌に入っていないのだろうか、身体は雪道のせいもあって泥だらけ。
首輪をしていないところを見ると、きっと野良なのだろう。
「ほら。こっちおいで。」
タオルをキュッと腰巻きし、脱衣所でこちらの様子を伺い立ち止まったままの猫に声をかける。
風呂は初めてなのか、キョロキョロと辺りを見回しながら、少し躊躇した様子でゆっくりとこちらへやって来た猫に口元が綻ぶ。
「綺麗にしてやるから…さっ。」
近くまでやって来た猫をヒョイと拾い上げ、膝の上に乗せてやると、猫はちょこんと座ってこちらの様子を伺っていた。
人に慣れているのか、もしかしたらどこかの飼い猫だったが捨てられたとか…?
逃げようともしない猫を不思議に思いつつ、蛇口を捻りシャワーの湯をかけてやる。
「熱くねェか?」
「……にゃぉ。」
湯をかけ、泥を落とし、ぼさぼさになった毛波を撫でてやると、コロリと膝上に横たわり腹を向ける猫。
「ハハッ。気持ちいいのか?」
シャンプーを泡立ててワシャワシャと腹を撫でてやれば、気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
なんだか初めて会ったような気がしなくて、随分と自分に懐いてくる猫に自然と笑みが零れた。
泡を流して、一緒に湯船に浸かり、湯冷めしない程度にと風呂場を後にした。
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