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ピンポーン♪
「………。」
いつもなら気だるげな返事が奥から帰ってきた後、ぼりぼり頭を掻きながら、もしくは鼻を穿りながら、ここの主が顔を出す。
どちらにせよ、失礼極まりない。
しかし今日はその気配は微塵もない為、日頃の恨みと言わんばかりに玄関の前で何度かピンポンダッシュしてやった。
正確にはダッシュはしてないからただのピンポンだ。
それでも尚、一向に返事のない扉の向こうの主に業を煮やし、全蔵は常に施錠などされていない扉に手をかけ、ガラガラと大きな音を立てて中に入っていった。
「どんだけ不用心なんだ。」
中に入りリビングを見渡すも、メールの差出人の姿はない。
まさか本当に拉致でもされたかと少し心配になる。
が、奥の部屋に人の気配を感じ、全蔵は自分の気配を消してそっと近付いてみた。
半開きの襖の向こうを覗き込むと、見知った男が中途半端にうつ伏せにぶっ倒れており、まさか!!と心臓が飛び跳ねる想いで駆け寄った。
「オイ!!しっかりしろっ!!」
抱き起こしてみればぐったりと首をしならせ、ピクリとも動かない相手に一瞬ゾッとしたが、その直後に放屁で返事をしやがったクソ野郎の頭にパーンッ!!と一発張り手を食らわしてやった。。
脈も呼吸もある。
外傷もない。
ただいつもと違うのは、火達磨にでもなったのではないかという程の灼熱の身体。
小気味いい音を立てて放たれた張り手にも動じず、一向にこっちの世界に戻って来ない相手をひとまず万年床まで引きずり戻し、布団を被せてやった。
「さて、どうしたもんかね…。」
今日はいつもいる子供たちの姿が見えない。
差し詰め、二人とも(+1匹)はどこかに出かけていて、一人でどうしようも身動きとれなくなった坂田は俺に…って、なんでそこで俺をチョイスしたのか。
もっと他にいただろうに。
こちとらバイトを急遽休む羽目になり、迷惑極まりない。
そうは言っても、来てしまったものは仕方ないし、こんな姿の病人を見て見ぬフリができるはずもなく、一先ずキッチンで氷水を貼った洗面器にタオルを浸して、やれやれと溜息をつきつつ部屋に戻る。
眉間に皺を寄せて失神同然の眠りに付いている病人の枕元に座ると、洗面器の冷水でタオルを絞って、熱に火照った額や首筋をそっと拭ってやり、何やってんだかともう一度深くため息をついた。
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