序章

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何かが自分の中で蘇るように目覚めた。 怒り。悲しみ。憎しみ。 いや、もっと複雑なものが沸き起こって、現は体の芯が沸騰する感覚に襲われた。 魂が爆発する。 様々な感情が殺意となって現を狂わせた。 刹那、大地が震撼した。 「……なんて霊気だ」 グアルディエールは呟いて身構えた。現は言葉をなくし吠えて彼に飛びかかった。 しかしこちらは何も武器を持たぬ丸腰の少年、隊を従える一頭の男には勝てるはずもない。 グアルディエールの光の刀は現の胴を斜めに斬った。血の代わりに、まさしく焼けるような激痛が現を止めふらつかせた。 「遊びはおしまい。任務通り殺すとしよう」 グアルディエールは刀を翻すと、倒れ込んだ現へと向けた──。 と、そのとき光の刀は何者かにはじかれる。 グアルディエールは身をふりかえし後ろに後ずさる。 現は痛みで意識が朦朧としている中、その光景を見た。 大男たちを次々になぎ倒していく、宙を舞う三つの人の形をしたもの。 そして自分を抱き起こす誰か。 「転輪王(てんりんおう)……!?」 グアルディエールが驚愕の声を上げた。現は自分を抱き止める白い衣に身を包んだ人物を垣間見た。 女、であった。 白いベールで顔がよく見えない。 グアルディエールが叫んだ。 「なぜ転輪王がここにいる! 世界を見守るだけの創造主が、歴史に干渉していいとでも思ってるのか!」 「去りなさい」 転輪王は静かに言った。 頭に直接響く声で、この世のものではないと悟った。 「あなた方は恐れているのです。カムチーが、人間が、いつか神を超える力を手に入れるのではないかと。そのようなことを危惧して、幾度も意味のない殺戮を犯す愚かな子たちよ」
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