序章

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しかし柳にはひとつ困りごとがあった。 柳は美女である。日に日に美しく女らしく育って、今では村一番の美女とも謳われるようになった。 しかし性格が名の通りしなだれた柳葉のようで、非常に物静かでおしとやかなのだが、度を越して臆病である。 美女ということは男の人気を集めるがその分女には嫌われる。そのため人に慣れず付き合いが苦手で、それだけでなく人間以外のものを怖がったりする。例えば山なりや風の音にも驚く。 南の村の人々は現や柳を芳しく思っていない。そのため、柳がひとりで今日のように外へ出かけると、必ず何か言われたり手を出されて問題が起きるのである。 現は御簾を上げて外へ出た。 嫌気がさすほど晴天だが、山の向こうには怪しい雲が見える。午後には降るだろう。 河原へ向かうと、やはり柳はそこにいた。洗濯物を持っていた。 が、刃物を持った男数人に囲まれている。 現はため息をついた。こういうパターンでは大概喧嘩となる。男たちは柳に何かを言っていた。 「いつまであんな化け物みたいな兄哥(あにぃ)といやがる。あいつぁ外国(とっくに)から来た異人に違いねぇ」 「あれは怪力で熊を素手で締め殺したりするそうじゃねぇか。あんな顔をしてるんだ、そのうち人をとって食うぞ」 現の陰口を言っている。柳は俯いて顔を赤くしている。怒っているのだが、やはり気性ゆえ言い返せないらしい。
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