序章

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家に帰ると柳は洗濯物を干し、畑で菜を摘み、釜で飯を炊く。 現は薪を割り、山で粘土質の泥を集めてきてはこね、焼いて陶物(すえもの)を作る。そしてそれを週末の市で売って生計を立てている。よそに雇ってもらえぬ以上それより他に選べる仕事がない。 もっとも不器用な現が作る陶物はどれも形がいびつで、売れなかったり難癖つけられたりする。まず大きい金にはならない。 しかし生活が貧乏であろうと村中から差別されようと、ふたりはそれなりに幸せに暮らしていた。 現は柳と共に何事もなく平和に暮らしていると、とても心が穏やかになっていく。 だが実際は誰も知らない。その心の裏側の奥底には、どす黒く汚れた塊が沈んでいることを。 現の理性の下に埋まっているのは、巨大な憎悪であった。恨み辛み、苦しみ、痛みであった。 それはひとえに、故郷を失った憎しみ。 一族を虐殺し母を殺し山ごと村を焼いた者たちへの憎しみ。 現はあの日の出来事を忘れたことはない。あの炎、大量に流れた血。赤い色をした地獄の光景は、その青い瞳に今でも焼き付いて離れない。 あの白く輝く女の言ったことが正しいならば、金髪の異人や彼を派遣した者は神ということになる。神の子として長い間恩恵を受けた一族がなぜ、何の前触れもなく突然神の手によって滅ぼされなければならないのか。 何も罪を犯さなかった一族が。 なぜ──生きているだけで罪だったのか。 現はそれが分からない。毎日悶々と考える。考えているうちに、憎しみは十倍にも二十倍にも膨らむ。 つらく思っても、死のうなどと考えたことは一度もなかった。憎しみは外へ外へと向いた。 そしていつしか思うようになったのである。 ──殺してやる。 突然理不尽に殺されたのなら、同じように殺してやる。 それが天だろうが神だろうが関係ない。 .
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