海辺の駅

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 翼は、一郎の言葉を心の中で繰り返していた。シンガポール、、、転校、、、 「あいつ、、、、、」  一郎の寂しげな顔が心を締め付けた。 「翼ー!パスだ!パスを出せー!」  翼は、ひとりで相手を抜いていった。 「つばさー!」  監督の声が響いているのは、わかっていた。「後、二人。」心の中で呟いた。フェイントをかけて、抜き去った。次の瞬間、翼は、前のめりに転がっていた。 「あ~」  みんなのため息が聞こえた。起き上がりながら、翼は、審判にアピールした。 「今のファールだろ!絶対ファールだろ!」  試合は、まだ続いていた。相手のパス回しについていけない、ディフェンスが歯がゆかった。それでも翼は、審判にアピールし続けた。 「何やってんだー!翼ー!ディフェンスのフォローに回らんかー!」  監督の怒鳴り声がとんできた。 「一郎…」  翼は、倒れ込むように地面に両手をついた。 「なんで居ないんだよお。おまえが居たら…おまえが居なきゃ…」  地面を叩きつける翼の耳にホイッスルが響いた。  監督の前に整列した翼たちは、みんなうつむいていた。 「今日の試合は、なんだ!一郎がいないだけで、この様か?あー!特に翼!なんだ、お前は、ひとりで、サッカーやってんのか!」  監督の拳骨が翼の頭を打ち付けた。翼は、痛みを堪えて、監督を睨んだ。
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