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はじまり
翼は、ゆっくりと 駅に入って来る電車の、窓ガラスに映る自分の姿を何の気無しに眺めていた。
「えっ!」
翼は、自分の目を疑った。今、目の前にある窓ガラスに写る自分の姿の向こうで、動いている生き物をうまく認識できなかった。
「な、なんだよ、、あいつら…」
目を擦って何度も見直したが、見間違えではなかった。窓ガラスには、マヌケな自分の顔と、その向こう側に毛むくじゃらの顔をした生き物が忙しなく、降車の準備をしている姿が見えている。
「ど、どうしよう…」
翼は、辺りを見回した。ホームには、誰も見当たらない。電車は、さらに速度を落とし、今にも停まりそうになっている。
「な、なんか、ヤバそうだよな~」
不安感が脚を震えさせ、身体に力が入らない。
キキキィというブレーキ音とともに、電車は、停まった。そして、窓ガラスの向こうから、翼を指差す毛むくじゃらの生き物たちと目が合った。
翼は、駆け出した。脚に力が入らず空回りしているようでもどかしかった。
電車の最後尾まで走ったところで、後ろを振り向いた。誰も追って来ていない事を確認してスピードを緩めた瞬間、何かにぶつかって弾き飛ばされた。
「いってぇなぁ」
倒れたままの翼の前に太った駅員が腰に手をあてて立っていた。
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