プロローグ

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 そのスペースの真ん中に、長机が一つ置かれていて、それを囲うように大小、形の様々な椅子が置かれている。  鮎川さんは、その内の一つ。 アルミ製の先進的なデザインの椅子(噂では、外国の名のあるデザイナーが手掛けた高級品だとか)でくつろぎながら、咎めるような口調で言葉を続けた。  「休日だからと言って、怠けているのではないだろうな。 それはいけない。 別に、遅刻の理由を問い詰めるつもりはないが、年長者として、注意のふりくらいはしておかないとな」  遅刻したわけではないのだけど、ついでに、怠けていたわけでもないのだけど……、と、わざわざ口答えをして本格的な説教を受けるよりは、甘んじて受け入れることにする。 僕は自分のロッカーを開けて、服を脱いでハンガーに掛ける。     「そもそも、一学生の身分であるのなら、こうして勤労に費やす時間を勉強に回してやるのが本当というもののはずだ。 学生であれる時間は短い。 それを――」  鮎川さんの“注意”は続く。 僕は鞄から制服を取り出してそれに着替える。 驚くことなかれ、これは、彼女にとってはあくまでただの“注意”なのだ。 彼女にとって、これは決して“説教”の内には入らない。  
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