プロローグ

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 「――つまり、何が言いたいかと言えば、学生だからと言って甘えは許されないぞ、ということだ。 して、鈴城。 これが今日の更新メニューだ」  僕が制服に着替え終えたのを見計らって、彼女は“注意”を止めて、灰皿の横に置かれていたB5サイズの画用紙をこちらに向けて寄こす。 そこには、本日限定、店長兼シェフの気まぐれセットの一覧とその詳細が書き綴られている。  僕は厨房には入らず、ホールに出て接客を主に担当するので、当然店で出される料理については、ある程度頭に入れておかなければならない。 そのうえで、日替わりに気まぐれに、レギュラーで出されるメニューのほかに、気まぐれセットなどと称して何種類かのメニューが毎日追加されたりするのだ。 接客を任される以上、これらのメニューについても、頭に入れておかねばならない。  以前、これも西江君の話だが、彼が出勤時間ぎりぎりにタイムカードを打ち、急ぎ着替えてホールに出たときの話。 お客さんの一人が、彼に気まぐれメニューについての質問を掛けた。 『この青林檎の南海パスタって、何事?』と。 西江君は焦った。 そんなメニューは知らない、想像もできない。 
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